日々徒然 +
by perky_pat
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ハート・オブ・ドッグ
過去に好きになった人の共通点は、全員ルー・リードの信奉者だったことだ。
と気が付いたのはつい最近のことだ。
ルー・リードが好きか嫌いかといえば好きだけども、信奉しているってほどではない。
顔と声がタイプじゃない、といういい加減な理由だけど、それは案外重要な問題だ。
ローリー・アンダーソンは45歳のときに50歳のルー・リードと出会ってパートナーとなったそうだ。彼女の作品にはこれまで全く興味がなかったが、ルー・リードのパートナーという点に少なからずシンパシーを感じる。
ダンサーの佐藤道代さんのレビューを読んで、久々に観たいという気になったのが、
ローリー・アンダーソンによる映画「ハート・オブ・ドッグ」だった。

仕事終わりに立ち寄った映画館には、私と夫以外には3人の
中年男性客のみ。
大衆演劇の劇場、競艇の場外券売り場、演歌専門のカセットテープ専門店、カプセルホテルにコンドームの自販機(!)。昭和感たっぷりのファンキーな匂いのする街に、唐突にあるアート系映画館、平日午後の回。これでもわりと集客できた方だと思う。
映画のパンフレットにはこう書いてある。

「NYのアートシーンで70年代から活躍し続ける音楽家ローリー・アンダーソン。
本作は彼女と夫ルー・リードが飼っていた愛犬ロラベルとの日々を通して『愛と死』
アメリカの今を綴ったシネマ的エッセイ。」





シネマ的エッセイ。。。分かったような?分からんような?
カテゴライズするなら「ポエトリー・リーディング」がど真ん中。
映像と音楽、言葉による散文詩。
死んでしまった犬をきっかけとして、愛と、死と生を、受け止めようとする一人の女性が
語りえぬものを言葉に紡ぎだそうとする実験。

この映画を観ようとする人にはルー・リードのファンも多いと思うが、
本編のなかでルー・リードに関するエピソードが直接語られるシーンはほとんどない。
人によっては難解だと感じるかもしれないけれども、
エンディングロールで流れる、ルー・リードの「Turning Time Around」を聞くと、
この映画全体が、愛をめぐる男女の会話であることに気付く。

正直、誰にでもオススメできる種類の映画ではないが、
哲学、スピリチュアル、宗教、アートに関心のある人には、
心にひっかかる言葉がたくさん見つかるはず。
何度も見返したくなる作品だと思う。


※3月に横浜で追加上映が決まったようです。「ハート・オブ・ドッグ公式サイト」(2/14追記)
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以下、長いので畳みます。




女性と男性の脳は機能的に異なっているいうのはよく聞く話で、
以前読んだ本には、右脳と左脳をつなぐ脳梁が太いのが女性の脳の特徴だと書いてあった。
脳梁の太さは左脳と右脳が情報連携する速さに直結している。
右脳で感じ取った情報を分析することなしに左脳で言語化して口から出す。
女性は次から次へと感じ取ったままに、寄り道をしながら言葉を紡いでいく。

脳梁の細い男性にはこれができないそうで、
右脳から受け取った情報は左脳でじっくり分析され、結論として言葉になる。
男性は言葉にした時点でゴールであり、寄り道もしない。
ちなみに女性的な男性は、やはり女性のように脳梁が太いそうだから、
逆もまた然り、ということなんだろう。

この映画もまさに女性の脳から産み出されたものだ。
ローリーの語りはポツリポツリと断片的に、時系列を無視して紡がれていく。
夢に落ちる直前ベッドの中で、まぶたの裏にとりとめもなく消えては浮かぶイメージのように。
やわらかで、ときにハートを引っ掻くような、76分間のつぶやきとひらめき。
ささやかれるひそやかなおしゃべりが、共感を呼び起こし、
次第に映像のなかに、私自身のストーリーが重なっていった。


////////////


愛という言葉の定義は難しい。
好きとは違う、愛という言葉は、長い間すっきりと定義できない言葉だった。
子供がいたら分かるのかもしれないと思ったが、結局人間の子供は産まれなかった。
そして初代犬のパクチーがやってきて、3年後に犬の子を5匹産み落とした。
彼女を通して私はさまざまな感情を、世界を、初めて味わうように再体験することとなった。

彼女が初めて家にやってきた日。それまでずっと狭いケージの中で過ごしてきたパクチーは、
初めて歩くフローリングの床の感触、その広さに喜び、興奮して部屋中を走り回った。
初めてセーターを着た日。人類の偉大な発明のひとつも、犬には余計なお世話らしい。
怒り狂い、テラスを転げ回って、抗議した。

初めて雪が降った日。大きな口を開けブルドーザーみたいに、
積もった雪を口いっぱいに頬張りながらリードをちからいっぱいひき、走った。
どこまでも、どこまでも。世界中の雪を食べ尽くす勢いで!
彼女の喜怒哀楽の表現はとてもストレートで、それを見ている私はとても幸せだった。
私と夫は彼女を連れていろんなところに出かけていった。
雑誌に載ってるようなお洒落なカフェ、犬好きが集まるドッグラン、クルマでの郊外への遠出。
そしてたくさんの犬と人の、友達を作った。
パクチーはその後半生を母親として生き、初めての出産と子育てもまた、私は共に経験した。
子犬たちの粗相のせいで洗濯物で使う水量がそれまでの倍以上になり、
水道検針で水漏れの可能性を指摘されたのは笑い話だが、
彼女が死んでしまったとき、そこに存在した愛の深さに私は心底打ちのめされてしまった。

「語りうるものはすべて明晰に語りうる。」とウィトゲンシュタインは言った。
人はあらゆることを言葉で定義しようとする。
言葉は人類の最も偉大な発明のひとつだが、紡ぐ端から大事なことを取りこぼすという性質を持っている。
はるか昔からあまたの哲学者たちはあらゆる語りえぬものを言葉にしようと試み、
それらをつなぎ合わせて、世界をいわばひとつの物語りとして定義しようとしてきた。
東洋哲学専攻だった私は般若心経をよみ、仮名付き書き下し文にしながら、
言葉による表現の限界にイライラしたものだ。

「語りえぬものについては、沈黙しなければならない。」と言ったのもウィトゲンシュタインだ。
沈黙しなければならない、といちいち言わなくてはならないくらいに、
一度言葉を手に入れた人類は、定義なくしては生きられない。
長い歴史のなかで何度でも繰り返し、
愛について考え、語り、言葉を発し定義しようとしてしまう。
それが人なのだ。
この大いなる無駄のように思えるあがきこそが生きる意味だと、いまなら思うことができる。


////////////


エンディングロールに入り、ルー・リードの「Turning Time Around」が流れる。
76分の夢うつつの体験の最後に、この歌詞。なんと単刀直入に男性的なのだろうか。
(劇場で字幕をメモした紙が、今頃になって出てきたので、歌詞の部分を書き換えました 2/14)


彼女が聞く 愛を何と呼ぶ?
僕の答えは“ハリー”
冗談は やめて 私は真剣なの
愛って何だと思う?

家族でもなければ 性欲でもない
もちろん 結婚は義務でもない
結局は信頼の問題だろう
あえて言うなら 愛は時間だね

彼女が問う 愛って何?
もっと具体的に答えて
愛は何だと言える?
読めない心 それ以上のもの?

時間には意味もなく 未来も過去もない
愛する人がいれば 聞くまでもない
愛は いつまでも つかまえておけない

時は巡っていくから

時の流れが変わる
それが愛というもの
時は巡っていく
そう それこそが愛

愛し合う者が 共有する時間
いくらあっても足りない
見えない つかめない
まさに愛そのもの

時は巡っていく
時は巡っていく
つかまえないと
何としても つかまえないと

時は巡っていく
しっかりつかまえておけ
時は巡っていくから

字幕:高井清子さん





映画の字幕はとても素晴らしい翻訳なので、ぜひ観てご確認ください。
画面にはルー・リードとロラベルが鼻を突き合わせて見つめあうモノクロの写真。
そしてローリー・アンダーソンからの夫、ルー・リードへの献辞。
彼の返事に対する彼女からの返しが巡り巡って76分もの映画になっているとは。まさに、女性的。
そう書いている私のレビューも実に長いけれど(!)

動物を飼っている人なら誰もがあの写真に共感し、自身のストーリーと重ねて見るだろう。
別れ際、病院のベッドのうえで、夫とパクチーは、一瞬、見つめあった。
時間の中に永遠にピン留めされたような瞬間。
数時間後に死んでしまうとは思えないくらいに、澄んだ目でまっすぐに夫を見つめていた。
パクチーは夫を愛していたのだ。
いっさいの言葉を使わず、その表情だけで、彼女は愛の深さを完璧に表現していた。
どんな哲学者も、導師も、詩人も、彼女にかなわない。
動物は愛を表現する天才だから。
見つめたり、寄り添ったり、静かな寝息のひとつひとつで。
彼女と過ごした瞬間を思い出すたび、その時間が愛で満たされていたことを知る。
一度として言葉に表されることはなかったが、感じることができる。
私の周囲のそこかしこに、むかしも、そしていまも、たくさんの愛が満たされていることを。
パクチーが亡くなったあと、ふと理解できた。長い夢から覚めるように。


このエンディングロールの最中、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになってしまいました。
観終わったあと、心にひっかかっていたもやもやが、すっと腑に落ちていく。
スッキリした気持ちになる、いい映画です。


レビューを書くはずが、書いてみたらほぼ自分のストーリーになってしまいましたが、
観る人それぞれに、自分のハートオブ○○があるでしょう。
ハートオブキャット、ハートオブラビット、ハートオブ鳩。。。否、バードか。


最後に2013年のルー・リード死後、ローリングストーン誌に寄稿され、
その後ロッキンオンに翻訳掲載されたテキストをリンクしました。
ローリー自身の言葉が、この映画のいちばん良い説明になっていると思います。


◎ルー・リードとの出会い、結婚、そして死を妻のローリー・アンダーソンが語る
http://ro69.jp/news/detail/91843

それに、こちらも併せて:
◎ルー・リードの妻のローリー・アンダーソン、隣人に宛てた公開書簡を明らかに
http://ro69.jp/news/detail/91524



文責:Patことm







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by perky_pat | 2017-01-25 13:15 | 映画・ステージ | Comments(0)
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